長年賃貸業を営んでいらっしゃる方の場合、建物が老朽化したり、周辺の都会化などで、建物を建て替えて、もっと有効に利用したいと考えることもあると思います。

もちろん、建物はいつまでも同じものでいいというわけにはいきません。いつか建替えが必要な時期がきます。

ただ、物件に賃借人がいる場合、明け渡しが問題になります。

多くの場合、老朽化した旧建物と新築する新建物との間では家賃も間取りも異なりますから、旧建物の住民には退去を求めることが多いでしょう。

商業ビルでテナントを募集するケースでは、引き続き利用してもらいたいケースもあるでしょうが、一時退去は必須ですから、いずれにしても、明け渡しに関する交渉が必要になります。

平日の相談が難しい方のために、夜間、休日の法律相談も可能です。

建物の明渡と債務不履行の有無

明渡が問題となる場面では、通常、使用者と賃貸借契約があります。

もちろん、不法占拠者に明け渡しを求める場合もありえますが、これは、法的に請求出来ることは明らかですので、今回は省略します。問題があるとすれば法的にではなく不法占拠者の属性(暴力団のおそれがあるなど)でしょう。このような場合も対応可能ですので、お困りの場合は個別に弁護士にご相談ください。

貸主が借主に建物の明渡を求める場合には、債務不履行がある場合の明渡請求と、債務不履行はないが貸主の希望で明け渡してもらいたいケースがあります。

債務不履行による明渡には背信事情が必要

債務不履行がある場合にも、売買契約のような単発的な契約に比べると、制限があります。
賃貸借は継続的な関係ですので、当事者間の信頼関係が前提になっています。したがって、判例によれば、単なる債務不履行だけでは明渡が認められず、貸主と借主に信頼関係を破壊するに足る債務不履行があった場合に初めて契約の解除が可能になるとされています(以下、「背信事情」と言います)。

債務不履行による明渡では、一番典型的なのは賃料の滞納でしょう。
賃料の滞納は明確な債務不履行ですが、背信事情を要求される結果、1、2ヶ月程度の滞納では契約解除が認められないことが多く、少なくとも3ヶ月程度の滞納が必要とされることが多いようです(それまでの滞納状況によるので、絶対的な数字ではありません。)。

債務不履行のない明け渡しには正当事由が必要

債務不履行がない場合には、契約解除ではなく解約申入れを行うことになりますが、解約申し入れには正当事由が必要です。

この正当事由のハードルは相当高く、例えば貸主が使用の必要性がある場合でも、貸主自身が他に所有物件がなくそこに住むしかないというような高度な必要性が必要で、例えば自分の子どもが地元に戻ってくるので住ませたいというような事情では、必要性はないとされています。

老朽化による建物取壊しの必要性も、一応正当事由になりうるとはされているのですが、現実には、相当ハードルが高く、トタンを外に巻き付けて補修しているような家でも、無条件で正当事由ありとはされず立退料の支払が命じられた裁判例があります。

解約申入れによる明け渡しを求める場合、裁判では、立退料が全くかからないケースというのはほとんどないと思った方がいいでしょう。それほどハードルが高いのです。

一方で、より多くの利益を目的とする建替えのために明渡請求をするケースでも、明渡自体が全く認められない(借主住み続けることを認める)という判決は、あまりないと思います。
つまり、立ち退き料の支払いを覚悟すれば、明渡自体は可能だが、無条件に明け渡してもらうことは難しいので、建替えのために明渡を求めるなら、きっちりとした資金計画を立てる必要があるということです。

不動産業者には、明け渡し交渉の権限はありません

建て替えを考える時は、まずは不動産業を営んでいる方に相談するのが普通でしょう。

建物の建築についての相談もしなければいけませんし、それまでの賃貸業の関係でつきあいのある業者もいるのではないでしょうか。

ただ、気をつけなければいけないのは、明け渡しに関する交渉の代理が出来るのは弁護士だけで、不動産業者にその権限はないということです。明渡交渉は法律上、弁護士が独占する法律事務にあたるからです。

もちろん、宅地建物取引業者宅地建物取引士(旧来の宅地建物取引主任者。)は、不動産の売買や賃貸借に関する仲介、代理が出来ます。

しかし、出来るのはあくまで売買と賃貸の契約に関する件だけで、たとえ付随する業務であっても、それ以外に関しては権限がありません。つまり、建物の明渡しに関する交渉は、売買でも賃貸借でもありませんから、これらを代わりに行う権限はないわけです。

単なるメッセンジャーとして家主が明渡しを請求していると伝えることまでは出来ますが(これを法律的には「使者」といい、「代理」とは区別されます。)、たとえば立退料の決定や、明渡し時期に関する折衝など、交渉者に裁量が必要な行為は出来ないのです。

不動産業者が立退きの交渉をすれば、それは基本的に弁護士法違反です。刑事罰もあります。

現実に刑事罰が不動産業者に認められた件があります。
かなり強引な交渉をしたケースだとは思いますが、現実に、ビル解体のため賃借人の明渡しの実現を図る業務について有償で依頼を受けた件について、立ち退くつもりのなかった多数の賃借人がいる以上、条件についての交渉が不可避であったことを理由に、弁護士法違反で有罪とした最高裁判決があります。

私は、広島弁護士会で、弁護士法違反の行為を取り締まる委員会に所属していますが(2015年~委員長)、その経験からいえば、不動産業者の中には、自分たちが交渉をしてはいけないということを全く意識していない業者もいます。
そういった業者は多くの場合、調子のいいことをいって不動産所有者をその気にさせますが、借主が抵抗した場合、途中でうまくいかなくなります。

思わぬ立退料で計画が頓挫することも

また、どうしても明渡しに同意しない賃借人がいる場合、裁判によらざるを得ません。
また、事前交渉においても、賃借人側が弁護士を依頼すれば、不動産業者との交渉には一切応じないのが当たり前(弁護士法違反をしようとしている不動産業者を相手に交渉する弁護士はいないでしょう)でしょうから、あなたが交渉するか、弁護士に依頼せざるを得なくなります。

さらに、裁判になった場合に認定される立退料というのは、一般的にいって、おそらく賃貸人の方が考えているよりもかなり高額です。

引っ越しにかかる費用などでは全く不十分で、数年分の家賃に相当する額になることも多いのです。しかし、明渡交渉をしようとする不動産業者の多くは、このような相場について説明が不十分な場合が多いようです。

不動産業者に疑問を感じたら

とはいえ、建替えに関する相談、あるいは、その後の賃貸人の確保を考えると、不動産業者との連携は必要不可欠です。問題は、その不動産業者が無責任な業者である場合には、取り返しがつかない損害を被る可能性があるということです。

建て直すつもりで、10軒の賃借人に引っ越し費用程度の立退料での明渡しを請求し、半分は明け渡しに同意してくれたが、後の半分が全く交渉に応じなかったというケースを考えてみてください。

実は、裁判で認容される立退料と弁護士費用を考えると、予定よりも1000万円以上の出費増になる可能性があるのです。それくらい、裁判で認められる立退料は高額なのです。
これほど予算の見通しがくるってしまうと、計画は頓挫せざるを得ないかもしれません。そうすると、賃借人は半分に減ったが今の建物のままでやっていくしかない、ということになるかもしれません。

借主に明け渡しを求めた上で建替える、という計画の場合、このリスクを考慮して資金繰りや収益の計画を立てなければいけません。

誠実な業者であれば、このような疑問にも誠実に答えてくれ、リスクを説明してくれるでしょうから、資金繰り計画の中で考慮することが出来ます。いざというときには弁護士に相談、依頼できる環境を準備してくれてもいるでしょう。

しかし、このあたりの説明を全くせず、建替えることで大きな利益になることばかり強調する業者のいうことを信用すると、抜き差しならない状態になってしまう可能性もあります。
そうならない内に、自己防衛しておくことが大切です。

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