外国人雇用制度の変化と規制強化の背景

かつては、外国人労働者は、専門的な知識やスキルを持った人のみ受け入れるというのが日本の制度の建前でした。
実際に建前であったという部分もそれなりにあり、日本人の感覚だと単純労働者ではないかと思われるような仕事にも、これらの就労資格が認められていることも少なくなかったと思います。 

しかし現在では、技能実習生の枠が拡充され、また、特定技能という就労資格が創設されることで、現業的業務にも広く門戸が開かれることになりました。
これらの制度も、単純労働を行う労働者を受け入れるという建前をとっているわけではなく、あくまでも一定の熟練を前提にしていますし、本国に帰って技能を生かすための技能実習と言いながら実際には出稼ぎ目的の人が多いなど、まだまだ外国人在留制度については建前と本音の乖離が大きい分野ではあります。

ただ、制度として確実にいえることは、かつての制度の批判を前提に、単純な拡充ではなく、受け入れる外国人を保護する方向で制度の整備が進んでいるということです。

もっとも典型的に表れているのが特定技能制度と技能実習制度における欠格事由であるといってもいいかもしれません。

法規遵守が前提

特定技能制度・技能実習制度の両方とも、労働法や社会保険法・租税関係の法律を遵守していることが、外国人受け入れ機関の条件とされています。
つまり、これらの法律を守ることが、外国人受け入れの前提とされているわけです。健全な企業でなければ外国人を受け入れさせないという建前は分かりやすく適正なものではありますが、これらを確実に遵守するのはそんなに簡単なことではありません。

例えば、固定残業代を導入している会社があったとします。固定残業代は、現在の判例では有効になるケースが極めて限られているので、無効とされる可能性が高くなります。無効になれば、残業代の未払いが生じますから、労働違反に該当します。

そもそも、外国人労働者の多くは、少しでもたくさんのお金を稼ぐため、残業を希望することが多いようです。その残業に応じた手当がもらえなければ、監督官庁に申告される可能性は決して低くないでしょう。

もっとも危険なのが、労働条件の不利益変更をするケースです。
なぜなら、この点に関する判例の動向は、極めて厳しいからです。リーディングケースである山梨信用金庫事件では、合併に際し、被吸収企業の従業員の退職金制度が変更されることの承諾に関する有効性が問題になった事件ですが、「承諾しなければ合併自体がダメになる」と言って説得したことや、「最悪の場合退職金がゼロになってしまうかもしれない」などの具体的な不利益についてまで踏み込んで説明しなければ真摯な同意があったとは言えないと判断されました。

つまり、労働条件を変更するうえで承諾書をとっていたとしても、それが無効と扱われるリスクは非常に高いのです。無効となれば、これも労働法違反ということになります。

もっとも、入管の現在の運用では、些細な違反があっただけですべての外国人の受け入れが否定されるわけではありません。しかし、予期せぬ事態で認定取り消しとなることがあり得ることは、肝に命じておかなければいけません。

例えば、無資格者のフォークリフト運転とか、生産ラインに安全用のカバーをしていなかったなどの理由で、労働安全衛生法が問題になることがあります。これらが原因で事故が起きれば、数十万円の罰金刑とはいえ刑事処分がなされるのが通常です。
これらに直接外国人が関わっていなくとも、制度上は欠格事由となり、かなりの確率で認定取消となる可能性があるのです。定期健康診断やストレスチェックなど、労働安全衛生法には様々な義務が規定されていますが、これらもきっちり守る必要があります。

つまり、労働法違反を犯さないよう細心の注意を払っておかなければ、突然外国人労働者の受け入れが全くできなくなるという事態になりかねないのです。

税法の遵守が求められているということは、税務調査での指摘等にも、同様の配慮が必要ということになります。

非自発的離職の範囲は広い

もう1つ気を付けなければならないのが、非自発的辞職があった場合にも、欠格事由として取り扱われているということです。この、「非自発的離職」はかなり範囲が広く、労働法上有効な解雇であっても欠格事由に該当する可能性があります。

外国人本人が自発的に申し出たケース、あるいは重責解雇と認められるケースを除き、非自発的辞職に該当してしまうからです。

もっとも典型的なのはリストラのケースでしょう。業績不振でリストラを行う場合、外国人本人に責任があるわけでも望んでいるわけでもありませんから、仮に整理解雇の4要件を満たした適法な整理解雇であっても、非自発的離職には該当してしまいます。
整理解雇まで行かず、希望退職の募集や退職勧奨をした場合でさえ非自発的離職に該当するというのが行政見解です。

さらに、賃金低下や遅配、角内時間外労働や採用条件の相違、セクハラやパワハラの被害等、本人が嫌になっても仕方がない事情があれば、すべて非自発的離職として取り扱われます。

非自発的離職が1件でもあれば、欠格事由に文言上は該当してしまうのです。そのすべてが認定取消になるわけではありませんが、外国人の離職には細心の注意を払う必要があることは明らかです。

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