特定技能制度とは

特定技能とは、在留資格の1つで、2018年12月の入管法の規程を改正することで新設されました(施行は2019年4月)。これまでは、就労に関する在留資格は高度専門職に限られており、単純労働については認められないこととなっていました。

しかし、様々な社会情勢の変化により、外国人により不足する人材の確保を求める分野が生じてきました。そこで、かつては単純労働に該当するとされてきた仕事についても、在留資格として認める方針となり、導入されたのが特定技能という在留資格です。

技能実習法と異なり、労働力不足を補うために外国人を受入れることを正面から認めたわけです。

ただし、単純労働の受け入れを解禁したというわけではなく、あくまでも相当程度の知識と経験を要求することで、熟練した人材に限り認めるという枠組となっています。

農業、漁業分野を除き、企業へのフルタイムでの直接雇用で、所属する企業(特定技能所属機関)は1つに限られます。転職は可能ではありますが、在留資格は、所属企業まで含めて決まっていますので、転職する場合には、在留資格の変更が必要になります。

認められる産業分野

元々、労働力の不足する産業分野に関して外国人を受入れるという目的の下に生まれた制度ですので、特定技能の在留資格が認められる産業分野は限られています。2021年4月時点で、この「特定産業分野」は14分野となっています。

全体的に厳しい規制がありますが、分野によってはさらに上乗せ規制があります。

特定技能の種類

特定技能には、特定技能1号と特定技能2号の2つがあります。いずれも、同一の業務区分、あるいは試験により技能水準の共通性が確認されている業務区分であれば転職が可能です。

特定技能1号は、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準の技能を持つことを想定しており、技能水準と日本語能力水準を試験により確認されます。技能実習2号を良好に修了している場合には、いずれも不要です。ただ、完全にひとり立ちできることまでは要求していないので、企業または登録支援機関が支援計画を策定して支援を行わなければいけません。在留期間の上限は5年です。家族の帯同は認められていません。

特定技能2号は、さらに高い技能を前提としており、技能水準は試験等により確認されますが、日本語能力の試験は必要ありません。支援計画の策定実施は必要ありません。在留期間の上限もなく、条件を満たせば永住申請も可能です。また、家族の帯同も可能となります。つまり、特定技能2号は、生涯日本で働いてもらうことも視野に入った在留資格ということです。

なお、介護分野には特定技能2号はありません。その代わりに、在留資格「介護」の取得が認められるルートが出来ました。

在留資格の基準

①特定産業分野該当性(14分野に入っているか)②業務区分該当制(14分野の中の細かい区分に入っているか)③受入機関適合性(受入れる会社側に問題はないか)④契約適合性(契約内容は適正か)⑤支援計画適合性(支援計画は適切な内容か) の5つの要素から判断されます(2号の場合は、⑤は不要)。

登録支援機関

登録支援機関は、特定技能所属機関の委託を受けて1号特定技能外国人の支援計画の実施を行う組織で、登録制です。委託をすることは必須ではなく、全てを所属機関の自前で行うことも可能です。したがって、技能実習法における監理団体に比べると役割は小さく、規制も緩めといえるかもしれません。

特定技能所属機関

特定技能の在留資格の外国人を受入れる(雇用する)企業のことを、特定技能所属機関といいます。

技能実習における監理団体や実習実施者と同様、直接的な規制を種々受けます。技能実習と異なり、監理団体に相当する機関がありませんから、実習実施者と同様の規制よりも厳しいといってよいでしょう。

労働、社会保険、租税に関する法令の規定を遵守していることが必要なことは、技能実習と同様です。残業代の不支給や、日本人に対する労働安全衛生法違反なども問題になります。同一労働同一賃金の原則(均等待遇・均衡待遇)といった、解釈が微妙なケースについても、問題となり得ることになります。労働条件の不利益変更などは、判例上極めて厳しい条件が課されていますから、かなりの確率で違法となってしまいかねません。

特定技能所属機関にとって厳しい条件の1つは、過去1年以内、あるいは受入れ後に、離職者を出してはいけないことです。「自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された者」は適用外とされていますが、この自己の責めに帰すべき重大な理由というのは、懲戒解雇に相当するような場合に限られます。日本の労働法上適法とされる、普通解雇や整理解雇は含まれません。「自発的に離職した者」も適用外ですが、外国人自身の事情で失踪した場合はともかく、退職勧奨を受けて離職したような場合や、賃金低下や過度な時間外労働、採用条件等の相違など、労働環境に問題があった場合も「自発的」とはいえないことになります。

また、種々の届出義務が定められており、これを全うするだけでも一苦労です。入管法に基づく届出と、労働施策総合推進法に基づく届出があります。

転職の際には注意

特定技能外国人が転職する場合は、旧所属機関、新所属機関、外国人自身にそれぞれ厳しい手続義務があります。届出について、どれだけ大変かというイメージを持ってもらうために、1つ事例をみてみましょう。

例えば、外食業を営むA社が、外食分野・外食業全般業務区分で就労していた1号特定技能外国人Xが、有期雇用契約の期間満了前に退職を申出てAがこれを受理し、就職活動を経て、外食業を営むB社に、転職することになった場合,どれだけの届出が必要だと思いますか?

まず、A社は、退職申出を受けた段階で、①受入れ困難に係る届出、②特定技能雇用契約終了の届出、③支援計画変更の届出(支援する外国人の人数の変更)、④外国人雇用状況の届出(離職)、さらに⑤登録支援機関に全部委託契約をしている場合にはその終了の届出と、中途退職というだけで5つもの届出をしなければいけません。これを怠ると、いずれも特定技能所属機関としての欠格事由に該当しますし、刑事罰も制定されています。

次にXは、①所属機関に関する届出(契約終了)を出した上で、在留資格変更許可申請をしないといけません。所属機関から離職したら在留資格はなくなるので、就職活動をするなら、特定活動への在留活動許可申請が必要で、これをしなければ不法滞在になりますし、いずれの届出にも刑事罰があります。

Bは、外国人雇用状況の届出により雇い入れの事実を届け出る必要があります。これも、怠ると欠格事由ですし、刑事罰があります。
何でもない転職の場合でも、これだけの届出が必要であり、しかも、違反した時の制裁は決して軽くありません。

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