解雇はかなり難しい

今の日本の法制度において、解雇はかなり厳しく制限されています。
配置転換や転勤、降格といった処分については比較的緩やかに有効性が認められるのですが、解雇については、きわめて制限が大きいのです。

整理解雇(リストラ)の場合

比較的解雇が認められる余地があるのが、業績不振を理由とする整理解雇(いわゆるリストラ)でしょう。例えば事業再生を行っていた頃のJALでは、労働組合が強かったこともあり、かなり裁判でリストラの有効性を争う従業員がいましたが、状況が状況だったこともあり、有効と認められた例が多かったように思います。

ただし、業績不振があった場合でも、無条件に整理解雇が認められるわけではありません。

整理解雇には、4要件とか4要素といわれる条件があります。

これは、①整理解雇の必要性があること(業績不振など)②解雇回避の努力のための措置がとられたこと(役員の言及やワークシェアリング、希望退職者の募集など)③人員選定の合理性④解雇手続の妥当性(十分な協議により理解を得ること)の4つの要素を総合的に判断したうえで、解雇の有効性を判断するというものです。

これらが認められた場合に初めて、解雇することが出来ます。したがって、この辺りをいかに丁寧に検討し、実行していくかが非常に重要になります。

明確な会社の背信行為を原因とする解雇

会社に対する背信行為をした従業員の解雇は、比較的容易に認められます。
例えば、集金担当の従業員が売上の一部を着服する行為に関しては、1000円程度の少額でも懲戒解雇が認められる可能性が高い行為です。それ自体は些細なことで、刑事上は不起訴になる可能性の方が高いくらいですが、こういった行為は通常常習的に行われており、発覚した行為は氷山の一角であることが圧倒的に多いですし、質的にも、会社が許さなくて当然の行為であることが考慮されているといえるでしょう。

能力不足解雇のハードルは極めて高い

しばしば問題となるケースでは、能力不足の従業員を辞めさせたいというケースです。
残念ながら今の判例では、能力不足を理由に裁判で無条件に解雇が認められるケースは希です。

ただ、多くの場合は、従業員側も会社に居続けるモチベーションがなく、退職に至るケースの方が圧倒的に多くあります。ただ、無条件に解雇が認められるケースは決して多くはなく、まとまった金額の解決金の支払が条件となっているケースが多いのです。
かつては、能力不足だと判断した従業員に関しては、いわゆる窓際族として仕事を一切与えず退職するのを待つ、といった手法が大企業でも横行していました。

しかし、現代においては、これは明らかなパワハラであり、パワハラの6類型に「過小な要求」というのが挙げられています。
すなわち、言い訳のできない不当労働行為になってしまうので、法的に争われると反論のしようがなく、最近ではあまり行われなくなっています。

これに替わり、教育プログラムを施した上で十分な能力が発揮できない場合に解雇という手法が散見されますが、これも、ノルマの設定の仕方によっては、窓際族と同様の問題になりかねません。仮にこの手法で能力不足の解雇を行っていく場合でも、復帰の可能性がある制度にする必要があるでしょう。

すなわち、少なくとも、実際に一定割合が能力開発により職場復帰を果たすような制度設計でなければ、能力不足解雇を有効と認めることは難しいと思われます。

なぜ、こんなに能力不足の解雇が制限されているのでしょうか。

私は、従業員の全てに能力の高い人を要求するのは、社会経済上無理であるとの発想が根底にあるからだと考えています。事務処理能力が劣っている人、精神的に不安定な人というのは一定数いますが、こういった人も含めてうまく務めさせるのが、企業としての責任であるという発想が労働法や裁判所の価値観の根底にあるのです。

したがって、裁判上解雇が有効と認められるのは、平均以下の能力がないというだけでは足らず、著しく能力が低いケースに限られるのです。

会社としては、むしろ、発想を転換して考えていく方が建設的だと思います。つまり、人材不足が叫ばれる昨今であることを考えると、たとえ経営者目線では能力に不満があるとしても、うまく活用することが重要ではないでしょうか。
このような観点から言えば、能力不足であり解雇したいと思った場合でも、まずは配置転換や転勤で他の業務に従事させ、様子を見るべきです。

もしかしたら、上司との相性で能力が発揮できていないのかもしれませんし、特定の業務に適正がなかっただけかもしれません。
経営的な観点からも、そういったことを繰り返し、それでもダメな場合に、初めて解雇を検討するべきです。また、少なくともそういう場合でなければ裁判所は解雇を真面目に検討してくれません。

なお、これらの対応を取る際には、きっちりと記録を残しておくことが大切です。

もちろん、解雇したケースの全てが裁判で無効を争われるわけではありませんが、一定数そういった案件は存在します。解雇のハードルが極めて高い以上、解雇に踏み切る場合には、常に裁判を意識した資料の収集が求められるわけです。

したがって、その時々の職場での人事評価を適切に行うことが前提となります。さらに、トラブルがあった場合にはその時の具体的な経緯を詳細に記録し、関係者からの事情聴取を幅広く行う等して、多角的に資料を準備する必要があります。

この辺りの記録がどの程度詳しいかで、裁判所の印象は全く変わります。

大きな企業、しっかりした企業ほど、従業員の能力不足に関するエピソードを丁寧かつ長期間集めた上で解雇に踏み切っています。

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