労働事件が法的紛争になる場合、通常の裁判ではなく、労働審判や仮処分といった手続きで行われるケースが多いです。
とりわけ、解雇の有効性が争われるケースでは、ほとんどの場合、この両者のいずれかで行われるといってもよいでしょう。
労働審判とは
労働審判は、労働関係に関する事項についての民事紛争について、紛争の実情に即した迅速・適正かつ実効的な解決を図ることを目的とした特別の手続きです。
裁判官のほか、労働関係に専門的な知識経験を有する人(弁護士や労働組合の幹部経験者など。雇用者側、労働者側それぞれの立場から1人ずつ選定されています。)が判断を行います。
原則として3回の期日で結論を出すため、通常の裁判に比べると圧倒的に早い手続きです。
一方、審判の内容に異議がある場合には、その効力は無効になり、自動的に正式な裁判に移行します。
仮処分とは
仮処分とは、正式な裁判による権利の実現を保全するための手続きで、労働問題においては、そのうちの「仮の地位を定めるための仮処分」が解雇の有効性が争われる場合によく用いられます。
解雇の有効性は、最終的には裁判で結論が出されるわけですが、その間、解雇は現実に実施される以上、そのままでは、労働者に給与は支払われません。それでは、労働者の生活は破綻することから、より迅速な手続きで、とりあえず「仮に」給料の支払いを受ける地位にあることにして、最終的な結論は正式な裁判にゆだねるという形になります。
仮処分には「保全の必要性」(解雇無効の事件でいえば、給与の支払いがなければ生活が破綻するような状況)が必要で、十分な蓄えがある場合とか、夫婦共働きで配偶者が極端な高収入の場合などは、仮の地位が認められない場合もあります。
労働審判のような回数制限はありませんが、期日が通常の裁判に比べ短く指定されるのが普通で、回数も正式な裁判に比べると少なめになる傾向があります。
労働審判と仮処分の異同
労働審判も仮処分も、正式な裁判で簡易迅速な手続きであるという点は共通します。
期間を短くする方策は異なりますが、私の印象では、こちらの方が明らかに早いということはなく、おおむね3か月~半年程度で終了する印象があります。
結論の効力として、労働審判は、相手からの異議がある場合には審判の効力自体が否定されるため、給与の仮払いなどは認められません。一方で、審判は出されますし、相手方からの異議がなければ裁判をする必要はありません。
一方、仮処分は、決定が出れば、給与の仮払いが認められますが、保全の必要性がなければ認められないという制約があります。また、あくまでも仮の手続きですので、仮処分の決定内容にかかわらず、正式な裁判を行うことが前提になります。
現実には、いずれの手続きも、その手続きの中で和解が成立して終了するケースの方が多く、その場合には両者には差が出ません。
一方で、裁判所が結論を出した後の手続はだいぶ違います。
ただ、これらの手続きは、通常労働者側から申し立てられるので、会社側からは選択することができません。いずれの手続になったとしても、粛々と対応するしかないのです。
対応のペースが早く大変であること
これらの手続は、正直なところ弁護士泣かせの手続です。手間は通所の裁判とさほど変わらない割に迅速に処理しなければいけないため、非常に大変だからです。
労働者側での受任の場合には提訴のタイミングで多少調整できるので、事前に準備の期間をとることができますが、会社側の受任の場合には、裁判所から申立書が届いてからの準備になるので、さらにスケジュールがタイトになります。
せめて、申立書が届いたらすぐに相談いただきたいところです。
こういった不測の事態に対応するためにも、顧問契約を結んでいただくことをお勧めします。
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