労災は、一言で言うと、労働者が業務により、あるいは通勤中に負った負傷、疾病、障害、死亡に関して、保険給付をする制度です。

労災の態様

労災を被害面から分類すると、以下の3つに別れます。

①物理的要因による物理的負傷

例えば交通事故に遭うとか、職場の設備で負傷するなど、物理的な要因により怪我をするようなケースです。高所作業での転落とか、工場設備などで負傷するようなケースでは、労働安全衛生法違反などが要因となっているケースもあります。

②精神疾患への罹患

職場環境その他の原因で精神疾患に履行するケースです。精神間への罹患が業務を要因としているかどうかについては、厚生労働省が基準を公開していますが、現実にはかなり厳しく、認定される事例のほとんどは、過重労働があったケースという印象です(その意味では、②と③は、現実にはかなり被る部分があります)。
職場での出来事が原因で精神疾患と認められる例としては、自らが労災事故で大けがをしてしまったとか、逆に、自分の失敗が原因で同僚に大けがをさせてしまった場合など、体験自体が極めてハードなものが挙げられており、パワハラなどの職場での人間関係による悪影響というだけでは、認められるケースは希です。

③過重労働による疾病罹患(過労死を含む)

職場での長時間労働が原因のケースで、身体的な疾患(脳梗塞や心筋梗塞などが典型)のケースと、精神疾患に罹患、あるいはそれに起因する自殺など、心身いずれの被害も含まれます。

労災を避ける経営

いうまでもありませんが、労災を避けることは経営の基本です。

元々、業務の中では、一定割合で発生してしまうことが避けられないという考えから、無過失で保障することを認めた労災ではありますが、基本的には、万全の体制をとって避けることが何よりも重要です。

労災が認められる様な事故では、労働安全衛生法で定められているような対応をとっていなかったというケースが少なくありませんし、過重労働による労災は、残業をきっちりと規制していれば避けられるはずです。

出来る限り、従業員の健康に配慮した対応をとることが必要です。

労災隠しは論外

労災が発生した場合、労災保険の値上げや刑事バウ、行政処分、指名停止処分などのペナルティがある場合があります。

かつては横行していたと思われる労災隠しですが、労災は、従業員の側から申し立てられる制度ですから、隠し通すのは至難の業です。
また、労災隠し自体にも刑事罰があります。

被害者感情も悪化させてしまいますし、他の従業員のモチベーションを低下させることにも繋がります。
言うまでもないことですが、絶対に労災隠しはいけません。

労災手続への協力について

労災は、会社、従業員いずれからも申立が出来ますが、いずれにしても、労基署への書類提出や調査には協力しなければなりません。
ただ、事案によっては、本当に労災に当たるのか否かが微妙な場合もなくはありません。例えば肉体労働者について腰痛の原因となったというような場合には、明確な原因が特定されづらい場合もあります。

明らかに業務に起因しているのに否定しようとすると、労働監督署は会社の体質が悪質なのではないかと考えて大規模な調査に踏み切る可能性も否定できませんし、機械等の使用停止命令などが出されることも絶対にないとはいえません。

労災の療養中は解雇が出来ない

労災の被害者については、療養中及びその後30日間は解雇ができないということになっています。ただし、3年経っても回復しない時にさらに給与の1200日分の打切補償を支払ったケースや、天災事変やむを得ない事由のために事業継続が不可能になった場合は例外的に認められます。

労災民事請求について

労災においては、障害や後遺障害の程度に応じて、一時金や年金が支給されますが、被害従業員の損害の全てをカバーしているわけではありません。

一番典型的なのは慰謝料です。また、休業損害についても支払は6割で、全額がカバーされているわけではありません。その他、後遺障害に伴う逸失利益についても、相当額が支払われていないのが普通です。

これらについては、事業者に過失がある場合、損害賠償請求を受けることになります。

労災が労働者に過失がなくても保険給付がなされる無過失補償の制度であるのに対し、労働者から会社に対する損害賠償請求は過失責任(会社に過失がある場合にのみ損害賠償が認められる)であるという違いはあります。しかし、実際には、会社が無過失と判断されるケースは希です。

従業員が会社の安全マニュアルを完全に無視して作業を行った、会社としては自業自得といいたくなるような案件であっても、全額ではないにせよ(労働者に過失がある場合、過失相殺により賠償額は一部に限定されます)一部の損害賠償責任を認める裁判例の方が圧倒的に多いのです。

ただ一方で、損害賠償金からの控除が認められるお金もあり、その種類は様々です。例えば、労災給付の年金や、健康保険の遺族年金などは、控除できるお金の例です。会社に主張できる範囲をきっちりと主張することも大切です。

弁護士関与の重要性

発生してしまった場合には誠実で迅速な対応が要求される労災ですが、会社としても対応に困るケースがあると思います。労基署に提出する書類等についても、要領が分からないということもあるかもしれません。

従業員との確執が大きくならないうちに適切な対応をとることが大切であり、早い段階でご相談頂ければ幸いです。

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