強制執行の準備としての財産調査

債権回収の最終手段は、債務名義(判決)を用いての強制執行です。
強制執行というのは、要するに、債務者の財産を強制的に取り上げ、換価(物品の場合は売却、債権の場合は取立てて金銭化すること)して回収することです。

この過程でもっとも問題なのは、財産がどこにあるかを把握することです。
そもそも、支払わない債務者のかなりの割合は、そもそも財産がないため、強制執行が困難です。ただ、苦しいながらも、一定の財産を有している場合もあります。

この財産を発見することが、長年の制度的課題だったのですが、2019年の民事執行法改正により、万全とまでは言えないものの、一定の制度が整備されてきました。

債務者に対する財産開示手続

財産開示手続は、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続です。
債務名義を有する債権者が申し立てることが出来ます。
強制執行により一部の弁済が得られなかった時や、そもそも把握している財産に対する強制執行では一部の弁済しか得られないことの疎明があった場合に申し立てることが出来ます。

制度自体の導入は2003年とかなり前からあったのですが、あまり活用されてきませんでした。というのも、自分の財産を強制執行される前提で教えろ、というのは、かなりハードルが高く、呼び出されても出頭しない事案が少なくなかったからです。
不出頭や虚偽陳述については、2003年段階では30万円以下の過料でしたが、2019年改正では、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という、刑事罰が課されることになり、ペナルティが重くなりました。

とはいえ、劇的に出頭率が改善したとまではいえないようです。統計データによると、2017年~2020年の統計で確認する限り、大阪地裁では、40%以下だった出頭率が50パーセントくらいまで改善したようですが、東京地裁では、元々50パーセントくらいで、改正後も横ばいという印象です。東京大阪いずれにおいても、半分くらいは出頭さえしない人がいるということです。

期日では、申立人が許可を得て質問することが出来ます。
財産開示期日で得た情報は、債権回収の目的以外に利用したり提供したりしてはいけないということになっています。債務者が3年以内に財産開示期日における陳述をした場合には、再実施に制限があります。
不出頭の多い手続ですが、後述の第三者からの情報取得手続において、給与債権や不動産の情報取得手続を用いる場合、財産開示期日を実施することが必要になっています。

第三者からの情報取得手続

財産開示手続では、債務者自身に、強制執行のための財産を開示させるため、不出頭や虚偽陳述などの可能性が高く、必ずしも財産調査制度として十分機能していませんでした。そこで、情報を有する第三者に対し、情報を提供してもらう手続が出来ました。以下のような期間に、情報の取得を求めることが出来ます。

①金融機関等

金融機関や証券会社等に、保有する債券や証券の情報を開示するよう求めることが出来ます。
財産開示手続を取る必要はありませんし、この手続を利用したことの債務者に対する告知も、手続実行後です。概ね、全ての回答が到着してから1ヶ月経過後に告知されるような運用となっているようです。
預貯金などは流動性の高い資産ですから、先に債務者に手続利用の事実を悟られると、財産秘匿の可能性が大きいからとされています。

②市町村、日本年金機構

個人の債務者に対するもっとも効果的な強制執行は、給与の差し押さえです。しかし、元々開示してもらっていた場合や親しい間柄だった場合を除き、この情報を得ることは簡単ではありません。
そこで、市町村や日本年金機構に対し、税金や厚生年金保険料の納付データから勤務先情報の開示を受ける制度が生まれたのです。

ただ、債権者にとって効果的である反面、債務者にとっては生活の糧の一部を奪う重大な効果を有する制度であることから、①の預貯金の開示に比べ、厳格な手続が定められました。
まず、債務者に対する財産開示手続期日を実施することが必要ですし、不服申立の機会を確保するために、開示前に告知が行われます。

③登記所

不動産は、代表的な高価値財産ですが、自宅や本社ビルなどの場合を除き、発見は簡単ではありません。
そこで、登記所に不動産の情報を開示してもらう制度が生まれました。
手続については、②と同様、財産開示手続期日の実施や債務者への事前告知が必要な制度となっています。

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